2012年08月29日

稱名寺本堂保存修理工事




稱名寺本堂タイトル.jpg



はじめに

大阪府松原市にある、 報恩山 稱名寺 。
近鉄南大阪線布忍駅から西除川を渡った
住宅地の中にある、浄土真宗本願寺派の寺院です。
参道と下高野街道の辻には、「蓮如上人御舊蹟」の石碑が建っています。

このたび親鸞聖人七百五十回大遠忌を機縁として、平成22年から約2年にわたり、称名寺本堂保存修理工事が行われ、川面美術研究所は内部彩色保存修理を担当しました。
過日無事竣工を迎えましたので、
稱名寺本堂彩色保存修理の概要をお知らせするとともに、稱名寺本堂内部の華やかな世界を御紹介します。




建物の概要

 稱名寺本堂外観.jpg
名   称

員   数

  

建築年代

構造形式
 稱名寺 本堂

 1棟

 
大阪府松原市南新町2丁目9-8

 江戸時代後期  (ただし安政二年(1855)に西向きから東向きに立て直す)
 
 桁行五間(実長六間) 梁行六間半(実長七間半) 一重 入母屋造 本瓦葺




修理方針と仕様

本堂内部の内陣・両余間・内外陣境の構造材(柱・梁・貫など)は、漆金箔と極彩色で装飾されています。
また内陣・両余間は格天井で、格縁は黒色漆と漆金箔で仕上げ、格間も
漆金箔と極彩色の板が嵌められています。
置上彩色を用いた濃密な彩色技法、二十四孝や極楽浄土などの蟇股(かえるまた)彫刻の主題をはじめ、西本願寺御影堂内部装飾との類似点を多く見つけることができます。

極彩色の来歴について詳しくは分かっていませんが、現在の極彩色は後世に改変されたもののようです(下層に文様や配色の異なる別の彩色塗膜が残っています)。
しかしながら、塵埃や煤煙により極彩色および漆金箔の鮮やかさは失われ、また塗膜がめくれ上がるように剥離・剥落が進んでおり、今後維持することが困難な状態であることが明らかとなりました。
そのため関係者と協議の上、現状の極彩色をクリーニングと剥落止めによって保存し、さらに塗膜が剥落した箇所を対象に日本画絵具で補彩をすることで、宗教空間としての威厳を回復することにいたしました。




修理事例

稱名寺本堂内陣天井板修理前.jpg
稱名寺本堂内陣天井板修理後.jpg
修理前修理後

内陣天井画は、菊文の上に紙本著色の桔梗文を貼り付けるという特殊な形態になっています。
漆金箔はクリーニング(湿式洗浄)により、あたかも金箔を押し直したかのように輝きを取り戻しました。
菊文の輪郭は大半が剥落していたので、金泥で補彩しました。



稱名寺本堂共命鳥修理前.jpg
稱名寺本堂共命鳥修理後.jpg
修理前修理後

共命鳥(ぐみょうちょう。仏説阿弥陀経に説かれている双頭の鳥)の彫刻が付いた内外陣境の蟇股周辺。
イレーザーによる乾式洗浄と湿式洗浄を組み合わせたクリーニングにより汚れを取ったので、全体的に明るくなりました。




竣工写真
稱名寺本堂内外陣境完成.jpg
修理後の内外陣境

内外陣境各間の蟇股には、極楽浄土にいるという六鳥(南から、共命鳥・迦陵頻伽・舎利鸚鵡・孔雀・白鵠をかたどった彫刻が取り付けられています。
過剰な補彩を避けることで、華やかでありながらも上品で落ち着きのある空間となりました。




稱名寺本堂内陣完成.jpg
修理後の内陣

内陣の蟇股には、飛天の彫刻が付いてます。
来迎柱廻りの極彩色は、本堂内部でもとりわけ密度の高いものです。




稱名寺本堂南余間完成.jpg
稱名寺本堂北余間完成.jpg
修理後の南余間修理後の北余間

両余間は、構造材の極彩色もさることながら、天井の草花図が見どころです。
天井格縁もクリーニングにより光沢が増したので、天井画に遜色ありません。




稱名寺本堂南余間天井完成.jpg
稱名寺本堂北余間天井完成.jpg
修理後の南余間天井修理後の北余間天井

両余間合わせて72面、すべて異なった構図で描かれています。
漆金箔は鏡のように光を反射して、堂内を照らします。




おわりに

稱名寺は、本堂のほか山門・庫裏・鐘楼・土蔵・井戸屋形などで伽藍を構成しています。
これらの建物には、随所に
龍や十二支などさまざまな動物を主題とする力強い木彫が配置されています。
造形の特徴や墨書から、堺のだんじり彫刻との関連が指摘されているようです。
御参拝の折には、本堂極彩色と併せ是非御注目ください。

本工事にあたりお世話になりました、稱名寺様、一般財団法人建築研究協会様、株式会社金剛組様、八田彩華堂様、京都社寺錺漆株式会社様をはじめ、関係者の皆様に御礼申し上げます。
ありがとうございました。





posted by 川面美術研究所 at 16:00| 建造物装飾

2012年08月03日

朝日新聞出版 『週刊 日本の世界遺産&暫定リスト 14号』



復原修理で蘇らせる創建当時の「荘厳」.jpg


朝日新聞出版 『週刊 日本の世界遺産&暫定リスト 14号 古都京都3』 (朝日ビジュアルシリーズ) にて、弊社代表取締役 荒木かおり の執筆した解説が掲載されましたので、お知らせいたします。

“復原修理で蘇らせる創建当時の「荘厳」” と題しまして、西本願寺虎之間障壁画および御影堂内部彩色の復原について紹介しております。

掲載誌の詳細は、下記ホームページを御覧下さい。


日本の世界遺産14 表紙.jpg 「朝日新聞出版 週刊日本の世界遺産」   http://publications.asahi.com/isan/





posted by 川面美術研究所 at 15:41| 出版・放送・行事

2012年06月26日

伊藤若冲筆「釈迦三尊像」「動植綵絵」レプリカ制作

 
 


「釈迦三尊像」3幅(相国寺所蔵)と「動植綵絵」30幅(宮内庁三の丸尚蔵館所蔵)は、江戸時代の“奇想の画家”として知られる伊藤若冲の代表作です。

平成18年(2006年)から6年がかりで、便利堂様がコロタイプと手彩色による「釈迦三尊像」と「動植綵絵」の複製を制作され、弊社は彩色を担当させていただきました。

弊社二条城二の丸御殿障壁画模写担当者等が、コロタイプで刷られた絹本に日本画顔料を重ね、原本の華麗な濃彩を再現しました。
若冲の原本を間近に観察したり、若冲の筆の軌跡を追う作業は、私どもにとって非常に有意義な体験でした。

貴重な機会をいただいた 相国寺様、宮内庁三の丸尚蔵館様、便利堂様、 またお世話になりました 矢口浩悦庵様 をはじめ、関係者の皆様に御礼申し上げます。

「釈迦三尊像」と「動植綵絵」の複製制作については、下記ホームページにてくわしく紹介されておりますので、是非御覧ください。


便利堂コロタイプ通信   http://takumisuzuki123.blog.fc2.com/blog-entry-8.html
 
 
 
 
また「釈迦三尊像」のコロタイプ複製作品が、このたび公開されることになりました。
 
ワシントン「桜祭り」出品記念(明治45年桜6000本アメリカへ寄贈100周年記念)
伊藤若冲   釈迦・文殊・普賢三尊像と釈迦・文殊・普賢三尊像コロタイプ印刷特別展示
併設:館蔵の名品展

 会   期 : 平成24年6月23日(土)〜9月9日(日) 会期中無休
 開館時間 : 午前10時〜午後5時(入館は4時30分まで)
 会   場 : 相国寺承天閣美術館
 拝  料 : 一般800円/65歳以上・大学生600円/中・高生300円/小学生200円



こちらも是非御覧ください。


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京都新聞 平成24年6月23日






 
 
 
 
 
posted by 川面美術研究所 at 14:50| 美術工芸

2012年06月13日

第175回 鴨川をどり



平成24年5月1日(火)〜24日(木)、京・三条大橋畔の先斗町歌舞練場において、第175回鴨川をどりが開催され、弊社は美術を担当させていただきました。

道具帳(下絵)と公演写真の一部を掲載いたします。




演目
道具帳
公演
第一部 源平雪月花
二場 壇ノ浦
第一部 二 壇ノ浦-2.jpg
 IMG_3758-1.jpg
第二部 京都春宵
一 桜屏風
第二部 一 桜屏風-2.jpg
 IMG_3775-1.jpg
第二部 京都春宵
フィナーレ 藤の園
 第二部 四 フィナーレ 藤の園-2.jpg IMG_3790-1.jpg



先斗町歌舞会様をはじめ、関係者の皆様に御礼申し上げます。

公演に関する詳細は、下記ホームページを御覧ください。
   先斗町歌舞練場公式ウェブサイト   http://www1.odn.ne.jp/~adw58490/








posted by 川面美術研究所 at 09:00| 舞台美術

2012年05月25日

第140回 都をどり


平成24年4月1日(日)〜30日(月)、京都・祇園甲部歌舞練場において、第140回都をどり「平清盛由縁名所(たいらのきよもりゆかりのなどころ)」全八景が開催され、弊社は美術を担当させていただきました。

道具帳(下絵)と公演写真の一部を掲載いたします。



演目 道具帳 公演
第三景
清盛公嚴島参詣
 P1060694-1.jpg _MG_3973-1.jpg
第六景
晩秋大原里
 P1060697-1.jpg _MG_4012-1.jpg
第八景
花ごろも
 P1060699-1.jpg _MG_4034-1.jpg



祇園甲部歌舞会様をはじめ、関係者の皆様に御礼申し上げます。

公演に関する詳細は、下記ホームページを御覧ください。
 都をどり公式ウェブサイト   http://www.miyako-odori.jp/top.html








posted by 川面美術研究所 at 21:45| 舞台美術

2012年05月18日

白色LED斜光ライトの御案内




高槻電器工業株式会社より、文化財の調査・研究・修復に最適な白色LEDライト(TKW064-KAWAMO)が発売されました。

開発にあたり弊社が協力をしましたので、ここに御案内いたします。


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 白色LED斜光ライト TKW064-KAWAMO(高槻電器工業株式会社)




川面美術研究所は法隆寺金堂壁画模写以来、文化財保存事業に80年近く関わってまいりました。

近年では、保存及び復元修理には科学的知見が必要とされ、色々な分析機器を駆使しながら事業を行っております。

斜光照射による文様痕跡の解読は、当社の得意分野ですが従来の斜光照射機器は高価で、重量もありました。


今回、高槻電器工業鰍ニの共同開発した白色LED斜光ライトは軽量ポケットにも入るサイズで、LEDにより熱が発生しないことも大きなメリットです。


手軽に痕跡の調査、顔料塗膜の損傷状況の確認、撮影時に役立ちます。

修理技術者の必携となって文化財保存事業の一助になれば幸いです。


川面美術研究所 代表取締役 所長 荒木かおり





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光源は高輝度白色LED。
付属のレンズケースと組み合わせることで、表面観察に適した光線が得られます。
レンズケースの寸法は、約70×50×13o。
光源本体の寸法は、約60×40×9o。
小型なので、狭い空間に差し込んで斜光照射することもできます。
光源本体と
レンズケースは、容易に着脱可能。
レンズケースはゴムでコーティングされ、持ちやすさと対象物接触面の保護を兼ねています。

 IMG_4676-1.jpg電池ボックスには単3電池が4本入ります。
電源on/offスイッチと光量ボリュームスイッチで、微妙な光量の調節ができます。
両スイッチの間には、二重丸環金具が付いており、携帯性を高めています。
電池ボックス寸法は、約82×100×24o。
電池ボックスと光源本体(LED)を繋ぐコード長は、約900o(収縮時)。
ポケットに電池ボックスを入れ、光源本体を片手に持った時に、長過ぎず短過ぎない絶妙な長さ。
スパイラルコードなので、さらに伸ばせます。
写真撮影時の支障とならないよう、光源本体から電池ボックスまで、黒色に統一しました。



 
建造物彩色での使用例
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       順光撮影      白色LEDライトによる斜光撮影
順光撮影では判別できなかった彩色表面の凹凸や損傷が、白色LEDライトによる斜光撮影で、はっきりと記録できます。
ポータブルなので、文化財の調査・研究・修復に限らず、手軽な目視観察や写真撮影を必要とする多分野での活用も期待できます。




商品に関する詳細は、下記までお問い合わせください。
 

 高槻電器工業株式会社      http://www.takatsuki-denki.co.jp/products/light.html
   
   〒613−0034
   京都府久世郡久御山町佐山中道41−1
   TEL   0774−43−2111
   FAX   0774−45−1331






posted by 川面美術研究所 at 19:08| お知らせ

読売新聞 京を紡ぐ㉒模写画 荒木かおり“400年前の絵師と対話”



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2012年4月17日読売新聞連載 京を紡ぐ㉒ において模写画が取り上げられ、弊社代表取締役荒木かおりが取材を受けました。

川面美術研究所が1972年から継続して取り組んでいる二条城二之丸御殿障壁画の模写事業を中心に、二条城唐門修復など弊社近年の仕事やこれまでの歩みについて紹介されています。




posted by 川面美術研究所 at 15:15| 出版・放送・行事

2012年04月23日

第63回 京おどり


平成24年4月7日(土)〜22日(日)、京都・宮川町歌舞練場において、第63回京おどり「花都四季栄耀(はなみやこしきのえよう)」全七景が開催され、弊社は美術を担当させていただきました。

道具帳(下絵)と公演写真の一部を掲載いたします。

 演目道具帳
公演
第二景 艶競百花蓮華
洛西・法金剛院の庭
 DSC03138-2.jpg _MG_4190-2.jpg
第四景 岩長姫物語
鳴滝川
 DSC03146-2.jpg _MG_4281-2.jpg
 第七景 宮川音頭
宮川町歌舞練場前
 DSC03165-2.jpg _MG_4332-2.jpg

宮川町お茶屋組合様をはじめ、関係者の皆様に御礼申し上げます。

公演に関する詳細は、下記ホームページを御覧ください。
 宮川町お茶屋組合公式サイト   http://www.eonet.ne.jp/~miyagawacho/





posted by 川面美術研究所 at 17:00| 舞台美術

2012年04月03日

【重要文化財】片埜神社本殿竣工のお知らせ



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 修理前 概観

修理後 向拝蟇股

 IMG_6808 東妻-3.jpg 東妻-3.jpg
 修理前 身舎東妻修理後 身舎東妻


大阪府枚方市の片埜神社本殿保存修理工事が完了いたしました。

    名称
重要文化財 片埜神社 本殿
    員数1棟
    建築年代慶長7年(1602)
    所在地大阪府枚方市牧野阪2
    構造形式三間社流造。檜皮葺、南面
    指定年月日大正6年4月5日
    附指定棟札1枚

片埜神社本殿は、豊臣秀頼が片桐且元を総奉行として再建したもので、珍しい平面構成や慶長期の力強い造形に大きな特徴があります。

平成21年から3年にわたり、屋根工事、塗装工事、その他修理を内容とする保存修理が実施され、弊社は塗装工事(彩色塗装の調査および施工)を担当いたしました。

片埜神社本殿は、慶長期の再建以降、寛政8年(1796)、昭和10年、昭和49年に修理を経ています。

現状の調査および過去の修理記録や古写真の比較検証から、彩色塗装や蟇股彫刻の変遷を明らかにすることができました。

監督者の指導により、今回の塗装工事は昭和10年の状態に復旧整備し、平成23年9月竣工を迎えました。

宗教法人片埜神社様、文化庁様、大阪府教育委員会様、枚方市教育委員会様、公益財団法人文化財建造物保存技術協会様、株式会社村上社寺工芸社様をはじめ、お世話になりました関係者の皆様に御礼申し上げます。






posted by 川面美術研究所 at 17:04| 建造物装飾

2012年03月01日

成就院 本堂後壁画「二十五菩薩来迎図」完成のお知らせ


このたび栃木県鹿沼市の成就院本堂新築に際しまして、後壁画「二十五菩薩来迎図」を制作させていただきました。
平成23年11月6日には落慶法要が行われました。
完成した本堂、壁画の写真を掲載します。


成就院本堂正面1a-001.jpg  成就院本堂内部13a-001.jpg
成就院本堂 栃木県鹿沼市楡木町
成就院仏後壁画全体1s-001.jpg 成就院本堂壁画1a-001.jpg 成就院本堂壁画4a-001.jpg

 


【制作者言葉】

成就院本堂仏後壁画 二十五菩薩来迎図制作について

 荒木かおり

この度ご縁有って成就院様の本堂新築に際しての後壁画制作という御下命を賜りました。
御住職、副住職様と、本堂建築設計者の御意向を承り、高野山金剛寺本二十五菩薩来迎図を規範といたしました。
壁画が必要とされるお寺の御意向を尋ねましたところ、
『檀家様及びこの壁画を見た方が、死後の世界への怖れから解き放たれ、来迎を受け、安心して浄土へ向かえる事を感じられる絵にして欲しい。』ということでした。
この御意向を踏まえ、鹿沼市の成就院本堂に今まさに阿弥陀様と菩薩が舞い降りてくる情景を描くことに腐心いたしました。
成就院のシンボルツリーである紅葉のシダレアカシデや黒川、男体山を風景として盛り込み、現実世界と極楽世界をつなぐ空間表現になる事を目指しました。
菩薩の表情はとても難しく、何度も修正を加えながら色々な表情を楽しげにと自分で呟きながら描きました。衣装の文様や装身具等は助手を務めてくれた若手が精魂こめて描きました。描き終え、改めて高野山本の二十五菩薩来迎図の偉大さを痛感いたしました。

この制作にあたりましては、成就院様はもとより建築史のお立場から滋賀県立大学教授 冨島義幸先生、設計者として松本正己先生、施工管理 伸和建設小西隆夫様には甚大なる御助言をいただきました事に深く感謝いたしております。


制作担当者
 荒木かおり 

  大道優子
  河本万里子
  伴鈴子

       

posted by 川面美術研究所 at 00:00| 建造物装飾
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