京都府庁旧本館は、現在の京都府庁舎と同じ京都市上京区下立売通新町西入薮ノ内町にあります。
明治37年(1904)に完成したルネサンス様式の建物で、日本人建築家による西洋建築様式習得の到達点を示す作品として、高く評価されています。
明治期の姿を損なうことなく、今も行政庁舎として使われている点で、貴重な存在と言えます。
建物内外の優れた意匠とその歴史的価値から、平成16年(2004)12月10日重要文化財に指定されました。
正庁は京都府庁旧本館の2階にあり、公式行事や公賓の接遇のための最も格式の高い広間です。
正庁の壁はエンボス加工の凹凸で文様がかたどられていますが、これは19世紀に英国で発明されたリンクルスタという壁装材によるものと言われています。
平成24年度重要文化財京都府庁旧本館正庁改修工事において、弊社はこの壁装材の修理を担当しました。
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修理前 | 修理後 |
改修工事において洗浄されたので、壁全体が白くなりました。 修理後の写真では、都合により一時的にモールの一部を取り外しています。 |
この壁装材は耐久性がありますが、長い年月を経て亀裂や欠失が見られました。
今回の修理では、壁装材の剥離した箇所には接着剤を挿入し小型アイロンで伸ばしながら圧着しました。
欠失した箇所には、同じ文様の壁装材で補いたいところですが、現在同じものを入手することはできません。
そこで厚い和紙に絵具でエンボス状の凹凸を再現して壁装材を模造し、これを貼り付けてさらに色調を整えて仕上げました。
壁装材の模造工程 |
壁装材模造物 |
近世の社寺等建造物彩色では、絵具を盛り上げて半立体的な文様を描く「置き上げ(起き上げ)」と呼ばれる技法があります。
使用する材料は異なりますが、日本古来の彩色技法が、西洋様式による近代建築の修理に生かされました。