大阪府枚方市の春日神社(津田)の彩色・塗装保存修理工事が完了いたしました。
本殿 : 正面梁間一間、桁行一間、春日造、檜皮葺、南面。
末社若宮八幡宮本殿 : 正面桁行三間、梁間一間、流造、檜皮葺、南面。
境内の拝殿奥に並ぶ本殿(向かって右)と末社若宮八幡宮本殿(向かって左)の2社はそれぞれ、奈良の春日大社の本社(第二殿)と摂社三十八所社を天明6年(1786)に移築した、「春日移し」の由緒を有する社殿として知られていました。
修理の監修は(社)全国国宝重要文化財所有者連盟事務局長(元京都府文化財保護課参事)の後藤佐雅夫先生が担当されました。
今回の修理工事では、木部修理・漆喰壁塗り替え・金具の漆金箔押し(奥谷組担当)、階雁字板の剣先巴彩色・塗装塗り替え(川面美術研究所担当)を行いました。
修理中には壁板より墨書が現れました。
本殿の内法長押上小壁に「二之御殿」という文字と方位を記した墨書、背面切目長押下の壁板には、全面に「判じ絵」と呼ばれる江戸時代の謎解き絵が描かれており、その中に「天明六牛年」という紀年銘も確認されました。
同様に若宮社の内法長押上の小壁(琵琶板)には、「三十八社」と書かれた文字と方位が記されていました。
奈良春日大社の本社・三十八所社の建つ方位はそれぞれ、南面・西面であり、墨書にある方位と一致するため、今回の発見は社伝や史料の記述を裏付けるものとなりました。
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修理中の発見物によって、津田春日神社は奈良春日大社の社殿を移したことがわかったため、彩色・塗装の仕様は奈良春日大社に倣い、本殿の塗装は本朱塗り、若宮社の塗装は丹朱塗りとしました。
また、若宮社の雁字板に描いた連珠・剣先巴文は三十八所社の配置を参考にして復原しました。
ただし巴文については、本殿のものを基本として奈良三十八所社よりも古様に調整しました。
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現在の奈良春日大社はいずれも江戸末期の造替によるものであり、津田春日神社はその前身を現在に伝える遺構として重要です。
この2社の文化財的価値を損なわないよう、由緒に倣い奈良春日大社と同等の仕様で修理することで、移築当時の姿に蘇りました。